抒情詩(じょじょうし)
:作者の思いや感情を表す詩。
「叙情詩』とも書きます。
海
一ばん みじかい 抒情詩
なみだは
にんげんのつくることのできる
一ばん小さな
海です
―「寺山修司少女詩集」
つきよのうみに
いちまいの
てがみをながして
やりました
つきのひかりに
てらされて
てがみはあおく
なるでしょう
ひとがさかなと
よぶものは
みんなだれかの
てがみです
―「寺山修司少女詩集」
海のアドリブ
海の絵ばかりかいている画家の話はどうですか?
自分のかいた海へ投身自殺しようとして、毎日毎日青い海の絵ばかりかいている画家の話です。
いくらかいても、絵の海は「絵」にすぎないので、彼ののぞみは叶(かな)えられそうもありません。
彼はますます貧しくなってゆくし、画商たちは彼を相手にしなくなってしまいます。
彼の裏町の小さなアトリエには、まるで鉄色をした寂しい海の絵が一枚あるだけで、ほかの家具什器(じゅうき)は売りはらってしまったため何一つありません。
とうとう、レモンのような月の出た夜、その画家は自分の「海の絵」に自信をなくしてしまって、一人そっと波止場(はとば)へ出かけてゆき、ほんものの海にとびこんで自殺をしてしまいました。
ところが、彼がほんものの海にとびこんでも水音がなく、彼のアトリエの「海の絵」にドブーン! という水音がして、白いしぶきがあがったのでした。
そんなさみしい海の絵があったら、是非(ぜひ)一枚欲しい……
―「寺山修司少女詩集」