itには、ほかの代名詞にはない「特殊性」があるということ。
it の用法・3つの方向性
it については、たとえば It…that… という形で分類できる重要な構文があります。このような構文に関する説明は、英文を読解・解釈するページでくわしくお話します。
ここでは、代名詞 it の用法についてお話します。
通常の代名詞は、すでに前にでたものを指します。だから、そのような代名詞の方向性は、「前方向」の一つだけであるのが普通です。
This is Mike. He is a private eye.
(訳)こいつがマイクさ。彼は探偵だ。
※ 上の例では、代名詞の矢印の方向性は、Mike ← He
これに対し、it の方向性は3つあります。次の3方向です。
- 前方向
- 後方向
- 方向なし
以下に具体例をあげて説明します。
前方向
すでに前に出たもの(語・句・節)を指す it です。
(1) 語を指す
“What’s that flower? ” “It is a Christmas Rose.”
(訳)「あの花は何かしら」「クリスマスローズだよ」
※ that flower ← It
(2) 句を指す(不定詞句の例)
My mother wanted to have a tiger as a pet, but it wasn’t possible.
(訳)母はペットとして虎を飼いたかったが、それは不可能だった。
※ to have a tiger as a pet ← it
(3) 節を指す
Elizabeth likes eating natto, but she won’t admit it.
(訳)エリザベスは納豆が好きなのに、どうしても認めようとしないんだ。
※ Elizabeth likes eating natto ← it
後方向
あとから出るものを指す it です。
以下の2種類に大きく分けて説明します。
- 形式主語の it
- 形式目的語の it
形式主語の it
(1) 句を指す(不定詞句)
It is difficult to know at what moment love begins.
(訳)愛が芽生える瞬間というものは、なかなか気づかない。
※ It → to know at what moment love begins
(2) 句を指す(動名詞句)
It is no use crying over spilt milk.
(訳)こぼれたミルクのことで泣いても無駄である。
≒ 覆水盆に返らず〈ことわざ / 故事成語〉
(一度起きてしまったことは二度と元には戻らない、ということ)
※ It → crying over spilt milk
(3) 節を指す(that節)
Is it true thatElizabeth is a spy?
(訳)エリザベスがスパイだというのは本当か。
※ it → that Elizabeth is a spy
(4) 節を指す(whether節)
It is not clear whetherElizabeth is a spy or not.
(訳)エリザベスがスパイかどうかは、はっきりしていない。
※ It → whetherElizabeth is a spy or not
注意点:副詞節の内容を指す it
〈副詞節の内容を指すit について〉
当然のことですが、代名詞は「名詞の代わり」をします。
実際、上に出てきた「句」は名詞句です。
たとえば、不定詞であれば名詞的用法(~すること)です。
同様に、that節も whether節も、名詞節(~ということ)です。
これに対し、副詞節の内容を指すitと呼ばれるものがあります。
これは厳密には形式主語とは言えませんが、形式主語と同様な考え方で説明されるものです。
以下に2つの例を挙げます。
【例1】 Is it all right if I leave early?
(訳)早退してもよろしいですか。
〈直訳〉もし私が早退するとしたら、その行動はよろしいですか。
この if節は、時・条件の副詞節です。
it は代名詞である以上、「副詞の代わり」をすることはできません。
したがって it が if節自体を直接に指しているとは言えません。
そこでこの it は if節の内容を指していると説明されます。
【例2】It was a shock to me when Elizabeth turned out to be a spy.
(訳)エリザベスがスパイだとわかったとき、私にはとてもショックだった。
〈直訳〉エリザベスがスパイだとわかったとき、その事実が私にはとてもショックだった。
この when節は、時・条件の副詞節です。
この it は when節の内容を指していると考えます。
形式目的語
句や節の形をとる目的語が文の後方に回され、その本来の位置に代理として(形式的に) it を置く構文です。
(1) I found it difficult to eat crocodile.
※ it → to eat crocodile
(2) I found it difficult that I ate crocodile.
※ it → that I ate crocodile
(1)(2)の訳:ワニの肉を食べるのは困難だとわかった。
方向なし
具体的には何も指さない it です。
天候を表す it
・It is raining now.
(訳)いま、雨が降っています。
・When it is dark enough, you can see the stars.
(訳)じゅうぶんに暗くなると、星が見える。
※ 状況が最悪な時、絶望的な時こそ、星の光、すなわち、素晴らしいインスピレーションが得られる、ということ。
時を表す it
・It was a quarter to twelve.
(訳)12時15分前だった。
・What day is it today?
(訳)今日は何曜日ですか。
・It is thirty years since I came across Shakespeare.
(訳)私がシェークスピアに出会って30年になる。
距離を表す it
・How far is it from Miyakonojo City Hall to the Palace of Versailles?
(訳)都城市役所からヴェルサイユ宮殿まで、どのくらい距離がありますか。
・It is almost 10,000 kilometers.
(訳)ほぼ1万キロです。
漠然とした状況を示す it
・ Now it’s your turn.
(訳)〈ステージで〉さあ、きみの出番だ。
・How’s it going?
(訳)元気かい、調子はどう?
・If it’s okay, let’s meet this evening.
(訳)大丈夫なら、今晩会いましょう