英文法の部屋

人称代名詞 ― マニアックに見えて、実は、英文を正確に読むために必要な知識など

人称代名詞の基礎知識

 

人称代名詞の意味

 

S塾長
S塾長
最初に、言葉の意味を確認しておきましょう。

 

人称代名詞とは、1人称(=話し手)、2人称(=聞き手)、3人称(=話題にあがる人や事物)の区別を表す代名詞のことをいいます。

以下は具体例です。

〈1人称〉

話し手(私)、または話し手を含む人の集団(私たち)を指す

(例)I, my, me, we, our, us

 

〈2人称〉

相手(あなた)、または相手を含む人の集団(あなた方)を指す

(例)you, your, you

 

〈3人称〉

話し手と相手以外の人、あるいは事物を指す

(例)he, she, it, they, his, her, its, their, him, them

 

なお、「人称 (person) 」という言葉にもかかわらず、3人称の場合、「人」だけでなく、人以外の「生物」、および「無生物」もこの中に含まれます

 

人称代名詞の格変化

 

このページでは、人称代名詞の格変化とは、主格・所有格・目的格の3変化をいうと考えます。

これらと、所有代名詞、および再帰代名詞は区別して考えています。

 

人称代名詞の格変化1人称の例)

主格私はI
所有格私のmy
目的格私をme

 

所有代名詞(1人称の例):mine 私のもの

再帰代名詞(1人称の例):myself 私自身

 

S塾長
S塾長
各人称の格変化は中学内容なので、ここでは詳述しないことにしますよ。

 

マニアックに見えて、実は、英文を正確に読むために必要な知識

 

本来は主格なのに、目的格を用いる場合

 

主格補語の場合

 

主格の代名詞は、主語および主格補語として用いられます。

主格補語とは、第2文型(S V C) における C のことです。以下のように用いられます。

主格を用いた例〉

 

Precisely.  It was I.

(そのとおり。あれは私でした)

 

That is he.

(あれは彼です)

 

S塾長
S塾長
上のような用い方は正しいのですが、とても形式ばった印象を与えます。この場合、以下のように、目的格を用いるほうが普通です

 

目的格を用いた例〉

 

(1) “Who is it?”  “It’s me.

「誰ですか」「です」

 

(2) “Who is it?”  Me.”

「誰ですか」「です」

(2)の  “Me.” は、 It’s me の It’s が省略された形。

単に “Me” とは言うが、単に “I” とは言わない。

 

(3) “Where’s Bob?”  “That’s him over there.”

「ボブはどこにいるのか」 「向こうにいるのがだ」

 

比較構文の場合

 

目的格を用いた例〉

 

Elizabeth is more exciting than him.

(エリザベスは彼より刺激的だ)

 

比較構文の than 以下に続くのは主語なので、本来は he です。

しかし口語調では、このように目的格が好まれます。

これに対し…

主格を用いた例〉

 

Elizabeth is more exciting than he is.

これはもちろん、本来の正しい表現です。

なお、この表現を用いる場合は、is を省略しないほうが望ましいようです。

 

この点につき、『徹底例解ロイヤル英文法』には以下のような記載があります。

is を省略すると形式ばった感じが強くなるので、ふつうは is を省略しないほうがよい。

『徹底例解ロイヤル英文法 改訂新版』P 175

 

薔薇とユリ
「比較表現」のしくみを知る ~ as many books as のタイプの説明 as ~ as の構文(原級比較)のしくみ A rose is as beautifu...

 

It is … that 型の強調構文の場合

 

He did it.(彼はそれをやった)

この文の HeIt is … that を使って、強調してみます。

 

通常は、以下のように主格が用いられます。

It was he that did it.

(それはやったのはだ)

これに対し…

口語的な表現では、やはり目的格が好まれます。

It was him that did it.

(それはやったのはだ)

 

本来は目的格なのに、主格を用いる場合

 

I saw him in the park.(私は彼を公園で見た)

この文の him を It is … that を使って、強調してみます。

 

本来は It is him that I saw in the park.

(私が公園で見たのはだ)

 

これをあえて次のように言うことがあります。

 

It is he that I saw in the park.

(私が公園で見たのはだ)

このようにあえて主格を用いると、形式ばった言い方になります。

 

なぜ、このようなことが起きるのか

 

この点については、安藤貞雄先生の『現代英文法講義』(P 427) の中に、明快な指摘があります。

 

本来は主格なのに、目的格が好まれる場合

 

たとえば、It is I. よりも It is me. のほうが好まれます。

この理由は以下のように指摘されています。

述語動詞のあとの位置は、”目的語の領域” (object territory) と感じられるからである

 

すなわち、述語動詞(V)の後ろの位置には、「主語の形をしたもの」(主格)ではなく、「目的語の形をしたもの」(目的格)がしっくりくるという、英語国民の感覚が理由であるということです。

なお、安藤先生のこの指摘は、ネイティブの文法家の著書・論文から引用されています。ふむふむ、なるほど。

 

本来は目的格なのに、主格が好まれる場合

 

とすれば、上に述べたことの逆パターンである、こちらも理解しやすくなりますね。

たとえば、Who did you see? という例文を考えてみましょう。

この場合は、以下のように指摘されています。

述語動詞の前が “主語領域”(subject territory) と感じられて、目的格の代わりに主格が好まれる。

すなわち、述語動詞 see の前の位置には、see の目的語となる whom(目的格)よりも、主格である who が置かれたほうがしっくりくる、ということですね。

 

 

私が愛する『現代英文法講義』は、日本国内において、最も素晴らしい英文法書のひとつです。

 

なお、同書は、その「はしがき」に書かれているように、「生成文法や認知言語学で掘り起こされた知見」が大幅に採り入れられています。

したがって、この英文法書は、高校生諸君が通常用いる学習参考書としてではなく、英文法研究をより一層深めるための資料として、お勧めすることを付記しておきます。

 

ただし、この書物を「虎の諸君」が手に取ることは、けっして止めはしませんよ。受験直前期を除いては。

(虎の諸君に、尊敬の念と親愛の情を込めて)

 

総称の人称代名詞(一般論の主語)

 

we, you, they はそれぞれ、漠然と「一般の人々」を指すことがあります。これは、1人称、2人称、3人称の区別を超えた、特殊な表現と考えられます。

we:話し手が所属する集団の一般論に用いられる

We have little rain here.

(訳)当地では、ほとんど雨が降りません。

≒ ここでは、住んでいる私たちは、ほとんど雨を経験しません。

※ この have は「(体験として)…を持つ,経験する」の意味

 

you:あなたも私もみんな、と聞き手を含めて一般の人々を指す。

You can’t make an omelet without breaking eggs.

(訳)卵を割らずにオムレツは作れない。

≒ まかぬ種は生えぬ〈ことわざ〉

※ 原因がなければ結果は生じない。あるいは、働かなければ利益も得られるはずがない、ということ。

 

they:聞き手も話し手も除いた「人」を一般的に示す。

They say prices will increase.

(訳)(世間の人の話では)物価が上がるそうだ。

They grow coffee in Brazil.

(訳)ブラジルではコーヒーを栽培している。

 

one:話し手を含む一般の人を指す。非常にかたい表現、かつ文章体。

One cannot change the past.

(訳)人は過去を変えられない。

 

 

S塾長
S塾長
さて、今夜はここまでです。もうじき朝です。

 

寝る虎

「おやすみ、親愛なる虎の諸君よ」